
探究のテーマがなかなか決まらない生徒がいます。
「何かない?」と聞いても、返ってこなくて…。

テーマは、思いつくものではなく掘り起こすもの。
一緒に伴走する方法を探っていきましょう!
探究学習で最初にぶつかる壁が、テーマ設定です。
「何に興味があるの?」と聞いても答えが返ってこない。
かといって教員がテーマを与えてしまえば、それは探究ではなくなってしまう。
現場でよくある悩みではないでしょうか。
私は、探究テーマは生徒の中にすでにあると考えています。
それがまだ言語化されていないだけで、心が動いた経験も、何気ない疑問も、生徒の中に必ずあります。
教員の伴走としての役割は、それを与えることでも、思いつくまで待つことでもなく、一緒に掘り起こすことです。
今回は、そのための手立てを実体験を交えながら紹介します。

テーマ設定は、生徒との対話が最も生きる場面でもあります。
一緒に伴走の仕方を考えていきましょう!
高校の数学教員として15年以上授業を行っています。
ただ学習内容を教えるのではなく、「学び方を教える」をモットーに授業作りをしています。
探究学習では、生徒が自分の問いと向き合う個人探究を中心に、外部連携も交えながら学びづくりに取り組んできました。
自分を深掘りする4つのワーク
いきなり「何がやりたい?」と聞かれても、多くの生徒は答えられません。
そこで、自分の関心を可視化するワークを用意しておきます。
これまでに私が使ってきたワークを4つ紹介します。
① 原体験を遡る
これまでの人生で心が動いた出来事を、書き出していくワークです。
今好きで取り組んでいること、熱中できること、やりたいこと、やりたくないこと。
出来事そのものだけでなく、そのとき何を感じたかまで書かせるのがポイントです。
探究の推進力になるのは、知識ではなく個人の経験やそのときの感情です。
なぜそれを行うようになったのか、なぜそう思ったのか。
過去に遡っていくことで、自分の原点を探ることができます。
またその過程で、「あのとき、〇〇があれば」「あれはおかしいと思った」という記憶なども見つかれば、それが問いの出発点にもなります。
② 感情グラフ
横軸に時間、縦軸に自分の満足度を取り、これまでの人生を一本の線で描くワークです。
線が上がったところ、下がったところで、何があったのかを書き添えていきます。
原体験を遡るワークは、テーマごとに自分の原点を思い出すのに対して、感情グラフはこれまでの人生を「流れ」で捉えられます。
自分でも気づいていなかった転機や、繰り返し現れるパターンが見えてくることがあります。
そこに興味・関心を深掘りするためのヒントがあるのです。
③ マインドマップ・マンダラチャート
中心に自分を置き、そこから関心を放射状に広げていくワークです。
①②が自分の内側を深く掘るワークだとすれば、こちらは視野を広げるためのものです。
マインドマップでは、「好きなこと」「興味・関心」「得意なこと」「性格」「気になっていること」「将来の目標」などから枝を伸ばしていくと、自身を深掘りすることができます。
また、思ってもみなかったところで関連付けが行われることもあります。
マンダラチャートでは、関心分野をさらに細分化させ、それらを細かく広げていくことでテーマから派生する関心を広げていくことができます。
一つの関心が広がることで、次にやることがどんどん出てきます。
④ 気になったものを記録し続ける
日常の中で気になったものを、一定期間ためていくワークです。
スマートフォンで撮った写真はもちろん、新聞の切り抜き、ネット記事のブックマーク、目にとまったデータなど、形式は問いません。
街で見かけた掲示、不便だと感じた場所、なぜこうなっているのか分からないもの。
ニュースで引っかかった話題、思わず読んでしまった記事。
それらを貯めてから見返すと、自分が何に反応しているのかが見えてきます。
このワークは、社会課題への関心のきっかけを探すときに有効です。
頭で考えて出てこないものが、日常の中にはたくさん転がっているのです。
ワークは、自分で作る
上記で紹介した4つのワークは、あえて具体的なワークシートの形は掲載していません。
なぜなら授業ワークは、目の前の生徒に合わせて自分で作るのが一番良いと考えているからです。
どこかから借りてきたワークシートは、確かに手軽です。
しかし、そこには授業者の想いが入っていません。
想いの薄いワークは、生徒に刺さらないからです。
- 自校の生徒はどんな実態か。
- 何につまずいているのか。
- 今回のワークで何に気づいてほしいのか。
それを考えながら形にしていく過程で、教員自身の理念がワークに入っていきます。
私自身も様々な書籍を参考にしながらも、自分なりにアレンジをしてワークシートを作成しています。
ここで紹介した4つのワークも、「なるほど、こういう方向で自分でも作ってみよう」と受け取ってもらえたら嬉しいです。
どれも有名なワークなので、インターネットに雛形は落ちています。
参考文献も記事末尾に記載をしていますので、活用してみてください。
掘り起こしは、対話とセットで

ワークを使えば、テーマ設定が進みそうですね!

でも書いて終わりでは、なかなか深まりませんよ。
+αで、人に話すことで思考が整理されます。
これらのワークは、グループでの共有とセットで行うことを前提としています。
自分で書いただけでは、気づきはそこで止まります。
人に話し、質問を受けることで、はじめて言語化が進み、整理され、新しい視点が生まれます。
ただし、ただ「見せ合ってごらん」では機能しません。
場の設計が重要です。
対話のルール、やり方を示しておく

私が生徒に伝えているのは、次のようなことです。
時間均等・発言均等
一人あたりの時間を決め、全員が必ず話します。
話が得意な生徒だけが場を占領しないように気をつけることが大切です。
聞いた人は、全員が必ず質問する
聞くだけの参加者を作らないようにします。
質問しなければならないと分かっていれば、聞き方も変わります。
否定しない/正解はない
探究のテーマに正解はありません。
違う意見は、否定するものではなく新しい視点として受け取る。
この前提を最初に共有しておきます。
そうすることで、心理的安全性が確保され発言がしやすくなります。
質問の仕方も、あらかじめ伝えておく
「質問して」と言われても、慣れないうちは何を聞けばいいか分かりません。
そこで、問いかけの例を示しておきます。
これだけで十分です。
知識がなくても、相手の話を深めることができます。
慣れてきたら、「なぜ」を5回繰り返す深掘りに挑戦してもよいと思います。
表面的な答えの奥にある、本当の関心にたどり着くことができるでしょう。
テーマ設定のつまずきと支援
意図的にテーマ設定のためのワークを取り入れたとしても、スムーズにいくとは限りません。
テーマ設定の際によく起こるつまずきとその支援についても紹介したいと思います。
つまずき①:テーマは決まったが、探究にならない

テーマは決まったのに、調べて終わってしまう生徒もいます。

テーマと自分との距離が近すぎるか、遠すぎるかのどちらかかもしれません。
テーマが決まっても探究が深まらないとき、私自身の経験では二つのパターンがあります。
自分ごとが近すぎる「ノウハウ型」
例えば「効率よく暗記するには?」というテーマ。
自分の関心から出発しているのは良いのですが、これは結局のところ教科の勉強がありきの問いです。
調べれば解決策がすぐに出てきてしまうので、そこで終わってしまいます。
支援の方向:学んで終わりにせず、発信・実装まで進める
例えば、調べた暗記法を後輩や中学生に伝える活動にしてみる。
それだけで探究は大きく変わります。
伝えるためには、相手に合わせて内容を組み立て直さなければなりません。
実際にやってみれば、うまくいかない場面も出てきます。
そこから新しい問いが生まれます。
また、アクションが加わることで、進路の可能性も広がっていきます。
- 教えることの面白さに気づいて教育の道を志すかもしれない。
- 記憶のメカニズムに関心を持って医学に向かうかもしれない。
- 子どもたちにアンケートを取ってみたら、文具がモチベーションになっていると気づいて、メーカーや人間工学に興味を持つかもしれない。
調べるだけでは、この広がりは生まれません。
アウトプットとフィードバックを繰り返すことで、探究はさらに深まっていきます。
他人事が遠すぎる「メディア型」
もう一つが、遠い国の貧困問題など、ニュースで見ただけの話題を扱うパターンです。
関心を持ったこと自体は素晴らしいのですが、現地に行くこともできず、インターネットで調べた情報を並べて終わりとなってしまいがちです。
支援の方向:現場を知る人に会いに行く
ある生徒は、メディアの情報だけで終わらせず、実際に現地に足を運んだ経験のある方にインタビューをしました。
編集された情報ではなく、生の声を聞いたことで、想像がより現実に近いものとなりました。
そして、自分にできることのヒントも得られたのです。
日本の状況と比較してみる、地域に落とし込んで考えてみる。
そうすることで、遠かった問題が自分の手の届く範囲につながっていきます。
つまずき②:そもそも探究に向き合えない
テーマ設定以前に、探究そのものに気持ちが向かない生徒もいます。
忙しくて、自分のことを考える時間がない
部活動に打ち込み、課題に追われ、自分のキャリアについて考える時間が取れない生徒は少なくありません。
だからこそ、探究の時間をその機会にするという発想が大切だと思っています。
学校生活の中で、自分と向き合える時間はそう多くありません。
総合的な探究の時間の単位数は少ないですが、そこでしっかりと支援をしていくことが大切だと考えています。
受験が心配で、探究を無駄に感じる
「探究より教科の勉強をしたい」という声もあります。
そしてこれは、教員側がその意識でいることが生徒に伝わってしまっている場合もあります。
探究で自分のやりたいことが深まっていくと、「なぜ学ぶのか」「なぜ大学に行くのか」という問いに、生徒自身が答えを持てるようになります。
それは受験勉強を進める上でも、決して無駄にはなりません。
まずは、先生方が探究を無駄な時間と思わないことが大切です。
とはいえ、教科の授業と同じで、探究が好きな生徒もいれば、乗り気でない生徒もいます。
全員を同じように熱中させることはできません。
それでも、彼らの人生に役立つ設計をして、学びを保証すること。
それが教員の仕事だと思っています。
まとめ:テーマは与えるものでも、待つものでもない
今回は、探究のテーマ設定における生徒への支援について紹介しました。
改めて整理します。
テーマ設定でつまずく生徒に対して、教員がテーマを与えてしまえば、その瞬間に探究ではなくなります。
かといって、生徒が思いつくのをただ待っていても、時間だけが過ぎていきます。
大切なのは、すでに生徒の中にあるものを、一緒に掘り起こすという関わり方です。
心が動いた経験、引っかかっている疑問、なんとなく気になっていること。
それらは必ずあります。
ただ、生徒自身がまだ言葉にできていないだけです。
その掘り起こしに伴走することが、テーマ設定における教員の役割だと考えています。

生徒の中にある探究の種を、一緒に見つけていきましょう。
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