
探究で外部の方に関わってもらうといっても、具体的に何をお願いすればいいのでしょうか?

社会との連携にはいろいろな形があります。
私が実際に取り組んできた5つの事例を紹介しましょう。
「探究学習で社会とつながる」と一口に言っても、その形はさまざまです。
企業の方に来てもらうのか、生徒が出向くのか。
一日だけの関わりなのか、継続的なものなのか。
連携の形によって、生徒の学びも、相手側の関わり方も大きく変わります。
「外部連携」という言葉だけが先行して、具体的に何をすればいいか分からず立ち止まってしまう。
そのような先生も多いのではないでしょうか。
今回は、私自身が実際に取り組んできた外部連携の5つの形を紹介します。
それぞれに「ねらい」があり、生徒にとっても相手にとっても意味のある形にしてきたつもりです。
ぜひ参考にしてみてください。

最初から大規模にやる必要はありません。
自校の状況に合うものから始めましょう。
高校の数学教員として15年以上授業を行っています。
ただ学習内容を教えるのではなく、「学び方を教える」をモットーに授業作りをしています。
探究学習において、地域の企業や大学、卒業生と連携した学びづくりに取り組み、生徒が社会とつながる場をつくってきました。
外部連携の実践例5選

早速、取り組んできた内容について紹介していきますね。
① 職業人講話
企業や社会人の方に来校していただき、生徒に話をしてもらう形です。
最も始めやすい連携ですが、実は誰に話してもらうかで、その価値は大きく変わります。
私は、講話の人選を「目の前の生徒に何が必要か」から逆算するようにしています。
キャリア意識がまだ薄く、なんとなく進学を考えている生徒たちには、少し年上の先輩の実話を
こちらは、入社して間もない社会人の方にお話を伺います。
高校生の視点をまだ持っているナナメの関係の社会人から話を聞くことで、社会人として働く姿が具体的にイメージでき、「働くって意外と面白そうだ」という感覚が芽生えます。
年齢の近い先輩の話は、生徒にとって聞き入れやすいというメリットがあります。
就職に直結する実業高校なら、まず職業そのものを深く知る機会に
就職が多い学校であれば、抽象的な話より具体的な話が生徒にとって参考になります。
その仕事のやりがいも大変さも含めて、リアルな姿を伝えてもらうことで、進路選択を考えるきっかけの一つになります。
探究に力を入れている学校なら、経営に関わる方やアントレプレナーを意識する
企業は最前線で社会課題を解決しています。
社会課題を解決するために、どのような視点で世の中を見て、どのような想いを持っているのか。
どのように事業として成立させているのか。
生徒が自分の探究を「社会にどう実装するか」を考えるヒントになります。
中高一貫校であれば、6年間の中で段階を追うこともできます。
まず職業を知る、次に職業を考える、そして職業を通じて探究とは何かを知る、など設計を組むこともできるでしょう。
講話は聞くだけで終わらせない
上記のように、自校の生徒の実態に応じて、最大の効果をねらうという発想が大切です。
ポイントは、講話を「聞いて終わり」にしないことです。
事前に生徒が問いを立て、事後に振り返りをする。
それだけで学びの質が大きく変わります。
職業人講話は、話してくださる社員の方にとっても、自分の仕事を高校生に語り、自らの働き方を言語化する機会になります。
学校側がしっかりとねらいを定めることで、双方にとって意味のある時間となるでしょう。
② インターンシップ
生徒が実際に企業へ出向き、就業を体験する活動です。
全国でも多くの中学生が職場体験をしていますが、普通科高校ではあまり実践されていません。
そこで、直接就職することが少ない普通科高校では、生徒が問いを持って現場に入ることがポイントです。
「この会社はなぜこの事業をしているのか」「大学の学問とはどのような関わりがあるのか」などといった問いを立てて臨むことで、単なる体験を超えた探究的な学びが生まれます。
また、インターンシップの大きな価値は、文理選択や職業選択の判断材料にもなることです。
ただ職業観・勤労観を得るだけでなく、キャリア教育を意識したインターンシップにすることが大切です。
これは、「やりたいことを見つける」ことだけではありません。
インターンシップを通して「やりたくないこと」に気づくことも、同じくらい大切です。
例えば、安定を理由に選んだ進路が、実際に体験してみると自分には合っていないと感じることがあります。
あるいは、「人と関わらなそうだ」と思っていた仕事が、実際にはチームで進めるものだった、という気づきもあります。
こうした発見は、決してマイナスではありません。
憧れや周囲の勧めを、自分の体験で確かめられること。
合っていると確信することもあれば、思っていたのと違うと気づくこともあります。
そのどちらも、進路選択にとって等しく価値があるのです。
▼「やりたいこと」を見つけるために「やりたくないこと」を知るという視点は、こちらの記事でも紹介しています。
▼興味・関心から職業を広げる方法は、こちらの記事もどうぞ。
日数が取れないときは、見学からでもいい
インターンシップの日数は、5日間が理想的だと考えています。
ただ、授業時数の確保との兼ね合いもあり、3日が現実的でしょう。
一方で、進学校では3日間生徒を送り出すことに、他の教員の理解を得るのが難しい場合もあります。
そのような場合は、一日インターンシップでも、設計次第で十分な学びを得ることができます。
例えば、インターンシップのノウハウがない場合や、日数が取れない場合は、企業を見学する「ジョブシャドウ」から始めるのも一つの手です。
働く人に密着し、その仕事ぶりを観察するだけでも、生徒は多くを感じ取ります。
多くの普通科高校では、そうした社会に触れる経験をさせないまま、面談では「将来何になりたいのか」「どの学部に行きたいのか」「興味・関心は何か」と生徒に問いかけてしまいがちです。
体験の機会を与えずに問いだけを投げるのではなく、まず社会を見せる。
見学だけの一日でも、その第一歩としての価値は十分にあります。
インターンシップの始め方
インターンシップは、実装する中でも教員の負担が大きい教育活動です。
教員が一社一社に生徒の人数分を依頼していては、通常業務への影響が大きいです。
そこで、地域の経済団体などと連携をすることで、実施の負担を減らすことができます。
▼地域の経済団体との連携の仕方は、こちらの記事でも紹介しています。
③ 探究発表会でのフィードバック
生徒の探究発表会に、これまでお世話になった外部の方を招き、講評やフィードバックをしてもらう形です。
外部からのフィードバックは、生徒にとって教員以外の大人から評価を受ける貴重な機会になります。
普段の授業では得られない、社会人ならではの視点でのフィードバックが、生徒の探究をさらに前へ進めてくれます。
そして、この取り組みには、連携を継続させるエンジンとしての側面もあります。
職業人講話やインターンシップでお世話になった方を発表会に招くと、その方にとっては、自分が関わった生徒の成長した姿を見られる喜びがあるからです。
また、企業の方にお話を聞くと、発表会は次のような意味を持っているそうです。
- 生徒が何を感じ、何を学んだかを知れる:自社のプログラムを通じて、生徒がどう成長したかがわかる
- 自社への振り返りになる:用意したプログラムが機能したか、自社の魅力を伝えられたか。企業自身へのフィードバックになる
- 他社の取り組みを知る機会になる:自分が関わっていない生徒の発表からは、他社のプログラムや工夫を知ることができ、勉強になる
教員が「お礼」や「報告」のつもりで招いているものが、企業側にとっては自社の取り組みを振り返り、改善する場になっているのです。
だからこそ、「また来年もやりましょう」という関係が生まれます。
生徒にも企業にも価値が循環する、この設計が連携を一過性で終わらせないための鍵になります。
④ フィールドワークの実施
生徒が地域や企業に出向き、調査・取材を行う外部連携です。
生徒が自分の興味・関心に沿って、話を聞きたい相手に自らアポイントを取り、インタビューや体験をします。
自分の足で現場を訪ね、当事者から直接話を聞く経験は、インターネットで調べるだけでは得られない深い学びにつながります。
とはいえ、見知らぬ相手にいきなりアポを取るのは、生徒にとってハードルが高いものです。
また、主体的なフィールドワーク・インタビューは、生徒の学びが大きいですが、しっかりと準備をしていなければ、相手にとって迷惑な教育活動となってしまいます。
そこで有効なのが、同窓生リストの活用です。
同窓生リストという学校の資産
同窓会と連携し、卒業生の協力を募って、取材を受けてくれる方のリストを作っておくのも一つの方法です。
作り方のポイントは、生徒の探究テーマをある程度ジャンル分けしておき、「こういう内容ならインタビューを引き受けられます」という形で、分野ごとに対応可能な卒業生を整理しておくことです。
このリストには、いくつもの利点があります。
- 生徒のハードルが下がる:まったく知らない相手より、同じ学校の卒業生の方がアポを取りやすい
- 「探究公害」の対策になる:探究学習の広がりで、特定の企業や自治体に取材依頼が集中してしまう問題を避けられる
- 多目的に使える:探究のフィールドワークだけでなく、講演会の講師を選ぶときなどにも活用できる
一度作っておけば、探究にとどまらず、さまざまな場面で使える学校の資産になります。
ただし、こうしたリストの整備には、教員のお膳立てが必要です。
ここは正直、手間がかかる部分でもあります。
それでも、一度仕組みをつくれば毎年活きてくるので、取り組む価値は十分にあります。
⑤ 大学生メンター
ここまでは主に企業や社会人との連携でしたが、連携の相手は企業だけではありません。
大学生に探究のメンターを務めてもらうという外部連携の形もあります。
私は、地域の大学に依頼してボランティアを募り、探究のメンター制度を導入した経験があります。
特定の日程に、大学生が生徒の探究内容にアドバイスをするため来校してくれるのです。
この形のよさは、大学生という「斜めの関係」ならではの距離感にあります。
教員がアドバイスをすると、どうしても「指導」になってしまいます。
しかし、少し年上の大学生が同じことを言うと、生徒にとっては「自分にもできそうだ」という感覚に変わります。
年齢が近いからこそ、生徒は次の一歩を踏み出しやすくなるのです。
一方で大学生にとっても、高校生の探究に伴走することは、自分の学びを深める機会になります。
- 自身の研究や大学での学びを言語化できる
- 学びを受け取る側から提供する側に回れる
- 活動実績になる
ここでも、双方にとって意味のある関係が生まれます。
大学生メンターの始め方
依頼は、大学の教務課などと連携をすると良いでしょう。
大学も高大連携のきっかけを探している場合もありますので、大学を通じて正式に大学生を募集できます。
大学のボランティア募集に掲載されることで、自校のホームページなどの発信より認知してもらうことができます。
各大学との連携が難しい場合は、卒業生にメンターをお願いすることも効果的です。
卒業前に協力可能な生徒に登録をしておいてもらいます。
初めは人が集まりませんが、年数が経つにつれて「自分も大学生のおかげで前に進めたから」という理由で、応募してくれる卒業生も増えていきます。
効果的なメンター制度にするために
一般的に、大学生はファシリテーターとしての経験が少ないことが多いです。
キックオフミーティングを行い、学校の目的を十分に伝えておくと効果的です。
さらに、来校してもらったときには、大学生同士で振り返りの機会を設けると、次回以降の伴走がとても上手になります。
また、大学生も本業が忙しいですから、応募したものの日程が合わないこともあります。
高校が授業で、大学が休みになる9月や2、3月などは比較的実施しやすいです。
メンターの数が少ないうちは、半期のフィードバックなど、実施の仕方を工夫することで、メンター制度を小さく始めてみると良いでしょう。
連携の形を選ぶ、一つの判断軸

外部連携と言っても、いろいろな形があるんですね。
取り入れるとき、何か基準はありますか?

私が大切にしているのは、「生徒が主役になれるか」という視点です。
ここまで5つの連携を紹介してきましたが、他にもさまざまな外部連携の形はあります。
- 企業が実際の課題を生徒に投げかけて解決策を提案してもらう形
- 企業が用意した教材で学ぶ形
- 大学や研究機関のプログラムに参加する形
などです。
もちろん、これらにも教育的な価値はあります。
まだ独自でカリキュラム開発ができていなかったり、中高一貫校の中等部やこれから探究を始める高校1年生などに探究のサイクルを経験させるためには大変有効な手段です。
しかし私自身は、あえてこうした形をあまり取ってきませんでした。
理由は、生徒がお客さんになってしまいがちだからです。
誰かが用意した課題や教材に生徒が乗っかって学ぶ形は、きれいに回ります。
探究のお作法を学ぶ段階であれば有効です。
しかし、最終的に高校生には、自身の在り方・生き方に基づいた主体的な探究学習に取り組んでほしいと考えています。
自分で問いを立て、自分でアポを取り、自分で社会に踏み込んでいく。
外部の方は、その主体的な学びを支えてくださる存在です。
今回紹介した5つの連携に共通しているのは、どれも生徒が主役で、外部はそれを支える構造になっていることです。
連携の形に迷ったときは、「この形で、生徒は主役になれるか」を一つの判断軸にしてみるとよいかもしれません。
まとめ:自校に合った連携から、生徒を主役に
今回は、私が実際に取り組んできた外部連携の5つの形を紹介しました。
改めて紹介をします。
大切なのは、自校の状況や生徒の実態に合った形を選ぶことです。
そして、どの形であっても、生徒が主役になれるかどうかを大切にすることだと考えています。
いきなり大規模な連携を目指す必要はありません。
負担の小さいものから始めて、相手との関係を育てながら、少しずつ広げていく。
その積み重ねが、生徒の学びを豊かにしていきます。

どの連携も、生徒が社会とつながる大切な機会です。
まずは一歩、踏み出してみましょう。
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