授業観察は、「何を見るのか」を決めておくと学びが充実します!
授業力を向上させるためには、いろいろな授業を観察するインプットが効果的です。
これは、お金もかからず頻繁に行えるコスパのよい方法です。
ただし、なんとなく授業を観察していても学びは得られません。
授業観察の視点をしっかり持った上で授業を見に行きましょう。
今回は以下の視点に着目して、それぞれの場合について授業観察のポイントを紹介していきます。
- 教員を見るのか⇔生徒を見るのか
- 同教科を見るのか⇔他教科を見るのか
- 同学年を見るのか⇔他学年を見るのか
「自身の授業力を高めたい」という先生は、ぜひ目を通してみてください。
- これから教員生活が始まる先生方
- これまでと少し異なる角度から授業観察をしてみたい先生方
- 授業力向上のための校内研修を企画している先生方
高校教員として、数学を10年以上教えています。
初任の頃は、自分がうまく教えることのみを意識して一斉授業を行っていました。
同僚の先生の授業を見たことをきっかけに、生徒が主体的かつ協働的に取り組む授業を目指すようになりました。
一律の宿題や教え込みを廃止したことで進学実績が上がり、学校単位で主体的な学びを推奨しています。
目次
授業力を向上させるためには
授業力を高めるためには、インプット・アウトプット・アウトカムが大切です。
授業方法を学び(インプット)、自身で授業を計画・実践し(アウトプット)、そして成果を評価し振り返る(アウトカム)ことで次につなげるというサイクルを回すのです。
今回は、このインプットの部分に着目します。
授業力を向上させるためのインプット方法としては、次のような方法があります。
- 書籍や雑誌で学ぶ
- 研修や勉強会に参加する
- 公開研究会など先進校視察をする
- 研究大会に参加する
- 校内の授業を見る
この中でも時間やお金がかからず、かつ頻繁に実践できるものが、校内で同僚の先生の授業を見ることです。
この基本中の基本ですが、意外ともったいない見方をしている人も多いのです。
以下、校内の授業観察のポイントについて、分類しながら見ていきます。
校内授業観察の視点
授業観察は、大体同じ教科の先生を見に行きますね。
自分の授業に活かせますし。
それもとてもよい学びですよね。
でも他教科の先生の授業も学びがあるんですよ!
授業観察といえば、年に一度くらいは公開授業を行う学校も多いと思います。
私の学校では、校長観察期間に同僚の先生が誰でも自由に授業を参観することができます。
このような機会があるとき、どの授業を見にいきますか?
多くの先生は、同じ教科の授業を見たり、自分のクラスの授業を見たりするのではないでしょうか。
一口に授業観察と言っても、どの授業をどのような視点で見るかによって学びは変わります。
この3つの軸を考えると授業観察の目的が見えてきます。
確かに言われてみればいろいろなパターンがありますね。
教員を見るか ⇔生徒を見るか
授業を参観しに行くと、教師がどのように発問・解説・板書をしているか、など教師の技術に目がいきがちです。
この視点はもちろん大切です。
自身の授業にも直接取り入れやすく、教師の基本である「教える技術」を高められるからです。
しかし最近では、「生徒を見る」という視点が重要になってきています。
活動の中で生徒の学びが深まった瞬間はどこか、生徒の表情はどう変わったか。
このような視点で授業を見ることで、生徒の学びの変化を見とる力を伸ばすことができます。
「主体的・対話的で深い学び」の実現のためには、生徒を学びを観察することが大切です!
この見とる力は、自分で授業を行いながら鍛えることがとても難しいのです。
授業は本番ですから、一度に40人を相手にしているなかで、生徒一人一人の学びを丁寧に見とる練習をすることはできないですよね。
その点、他の先生の授業であれば、生徒の表情や言動だけをずっと注意して見ることができます。
おすすめは気になる生徒を一人決めて、その生徒の変化を50分間見ることです。
1時間の授業の中で、その生徒がどのタイミングで学びの瞬間を得たのかをじっくり観察をすることで、学びを見とる力がつくのです。
グループ学習の授業では、一つのグループに着目するのもよいでしょう。
自分が授業を行なっているときに一人の生徒だけを見るわけにはいきませんから、大変ありがたい経験なのです。
今まで先生の説明ばかり見ていました。
たまに生徒のノートを見るくらいで…。
この学びを見とる力がつくと、自分の授業の中でも生徒の表情や言動に気づくようになります。
その結果、決められた計画通りの授業でなく、生きた形で授業を発展させていくことが可能になるのです。
どのクラスの授業を観察するか
「授業で何を見るのか」の次は、「どの授業を見にいくのか」を考えていきましょう。
先ほど紹介した2軸をもとに見ていきましょう。
- 同教科を見るのか⇔他教科を見るのか
- 同学年を見るのか⇔他学年を見るのか
同教科・同学年を見る
これは授業観察の基本中の基本です。
教育実習生や初任の方は、必ずここからスタートするはずです。
教育実習では自分が授業を開始する前に、担当の先生が受け持つクラスで授業をしてますね。
その授業を参観した上で、担当する単元を教えることになります。
初任であれば初任者研修の一環として師範授業があります。
担当の先生の授業をすべて見ることはできませんから、自分と同じ学年の授業を見て、自身の授業を作っていくことが多いと思います。
同教科・同学年の授業は、自分が行う授業をそのまま見ることできるので、教材を把握したり教え方を学んだりする点でとても参考になります!
もちろん経験を積んでいる先生にとっても、同教科・同学年の授業観察は役立ちます。
若手の新しい取り組みなど、学ぶことも多いですよ。
現在行っている単元だからこそ、すぐに実践に移すことができる即効性もあります。
ただし弱点としては、数学や英語など少人数や習熟度別の授業を行なっている場合は、そもそも自分が授業をしていて見れないという場合もあります。
社会や理科など単位数が少なかったり芸術系の場合は、自分一人で授業を持っているということも難点です。
同教科・他学年を見る
次は同教科・他学年の授業を見る場合です。
同教科の授業観察は、同学年も含め授業力向上のための中心的な場になります。
言わば、授業観察のセカンドステップと言えるでしょう。
まずは同教科が参考にしやすいってことですね。
最近は主体的・対話的で深い学びの実現が求められています。
このような言葉が出てくると、一斉授業VSグループ学習のように二項対立で物事を考えがちです。
私自身の考える授業力とは、「学ばせる力」と「教える力」の両輪です。
下図のようなイメージです。
教師が学習内容を確実に教える力があることが前提にあり、その上で生徒が自ら学びを深めるために教師が役割を演じるのです。
教師のもとで学ぶことが出来るようになれば、最終的には自分自身で学び続ける「自律型の学習」に移行していくことが目標です。
したがって、よい授業を行うためには「教える技術」も欠かせないのです。
文科省も主体的・対話的で深い学びについて、「活動あって学びなし」とならないよう多様な学習活動を組み合わせることとしています。
生徒の実際の状況を踏まえながら,資質・能力を育成するために多様な学習活動を組み合わせて授業を組み立てていくことが重要であり,例えば高度な社会課題の解決だけを目指したり,そのための討論や対話といった学習活動を行ったりすることのみが主体的・対話的で深い学びではない点に留意が必要である。
高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 総則編 p120-121
例えば一斉授業においても、生徒が主体的に取り組み、教師や生徒同士そして教材との対話を通して考えを広げ、見方・考え方を働かせながら深い学びが実現できればよいのです。
つまり一斉授業がすべて悪いわけではなく、一方的な教え込みの授業を改善したり、生徒の資質・能力を身につけさせるために一斉授業以外の活動も効果的に入れたりしましょうということです。
私自身も初任の頃は、一斉授業がメインでした。
この「教える力」の土台を持った状態で、生徒の協働的な学びを促していくことが大切です。
そうしないと、生徒に丸投げの「活動あって学びなし」の状態になってしまうのです。
「とりあえずグループ活動を入れて、おしゃべりをして終わり」にならないようにしましょう。
そこで、教師の「教える力」を高めるために同教科の授業を見ることが有効なのです。
他学年の授業は同学年ほどの即効性はありませんが、こちらも大いに参考にすることができます。
それは単元の系統性を踏まえた教材の理解です。
単元の系統性をきちんと理解していれば、つながりを持たせて分かりやすく授業を行うことができます。
また同教科であるため、他の先生の発問の工夫や授業の形態なども取り入れやすく、生徒の反応がよい取り組みも真似しやすいですよね。
次年度に向けた取り組みを探すのにもよさそうです!
日々の授業準備が忙しかったり、今年度の方針が決まってしまっている場合などは、じっくり考えてから実践に移すとよいでしょう。
他教科・同学年を見る
同教科の授業観察という基本ステップの次は、ぜひ他教科の授業を積極的に参観することをおすすめします。
この領域は、「学ばせる力」を身につけるキーポイントになるのです。
先にお話しした「教師を見るか⇔生徒を見るか」の視点も関わってきます。
他教科の授業って、ほとんど見たことありません。
「主体的・対話的で深い学び」や「協働学習」を進める上で、他教科・同学年の授業観察はとても役立ちますよ!
他教科・同学年の授業観察の最大のメリットは、自分が教えている生徒が他教科でどのような様子であるのかを知ることが出来ることです。
なぜ自分の授業では寝ているのに、他の教科では生き生きとしているのか。
得意・不得意教科などの理由だけではないかもしれません。
例えば、
- 発表活動などの表現が得意な生徒であったのに、自分の授業は教員が一方的に話をしているだけだった。
- じっくり自分の頭で考えたいのに、教員がヒントを与えすぎていた。
- 課題提示の仕方でグループ活動の良し悪しが決まりそうだ。
など、他教科だからこそ見えてくるものがあります。
この視点をもらうことが、生徒の学び方を促進させる授業につながります。
教員の教え方からも新たな視点が得られますが、ここでは生徒の学び方を見ることに大きな価値があります。
「生徒の学びを見とる力」を高め、それを自身の授業に応用することで、深い学びの実現につながるです。
他教科・同学年は、「生徒を見る」の視点に立つとよりよい学びにつながります!
他教科・他学年を見る
最後は他教科・他学年の授業観察の視点です。
これは自身の授業から少し離れていますので、「この先生の授業を見たい」という部分が大きかと思います。
授業力が高い先生の授業スタイルやマインドを学ぶ目的で参加するのがよいでしょう。
私自身の経験からも、ここでの授業観察から大きな影響を受けました。
初任時代の私は一斉授業を行っており、当時は協働学習を行なっている先生はほとんどいませんでした。
「主体的・対話的で深い学び」という言葉もありませんでしたし、アクティブラーニングも熱心に勉強している人しか知らない状況でした。
私の授業方針は、とにかく分かりやすく解説すること。
大半の生徒は真面目で、授業をよく聞いてくれましたし、分かりやすいとも言ってくれました。
でも一部は寝てしまったり、退屈そうに数学の授業を受けたりしていたように思います。
当時は言語活動の充実という言葉が出てきていて、特に国語科で意識されていた時代でした。
あるとき国語の先生の公開授業を見てハッとしました。
生徒が自分の頭で自分の意見を書き出し、グループで共有しているのです。
これをきっかけに生徒の能動的な学びを実現する授業を目指すようになりました。
このように、これまでの価値観を変える、パラダイムシフトを起こすきっかけをとなるのも授業観察です。
本質的な意味で生徒からの評判がよい先生の授業は、他教科であろうと他学年であろうと積極的に見ることが大切だと思います。
もちろん、その先生はこれまでの経験の中でそのような授業力を身につけています。
安易に真似をするのではなく、しっかりと自身の授業スタイルを確立した上で、レベルアップのために参観することをおすすめします。
まずは同教科の授業から学びを得て、自分の授業スタイルを確立する。
その後は授業観察の幅をどんどん広げていくことで、授業の視点が広がっていくのですね!
この段階になると、学校の外に出る学びの重要性にも気づくでしょう。
校内研修にも応用できる
これまで3つの軸に着目して授業観察の考え方について紹介をしてきました。
これらの考えは、校内研修においても利用できます。
研究授業の後の授業研究会って、イマイチ話が発展しないってことありませんか?
ベテランの先生には意見を言いにくいし、若手の先生は色々と指摘されることで研究授業を嫌がる傾向がある気がします。
この原因は、授業参観の視点が「教員を見ること」だからです。
若手はベテランの先生に「板書が見にくい」なんて指摘できないですよね。
「勉強になりました」くらいしか言えないものです。
ベテランの先生も気を遣って、若手にダメ出しができない状況もあるかもしれません。
そこで授業観察の視点を「生徒を見ること」に変えるのです。
そうすることで、話題の主語が生徒に変わります。
生徒を主語にして意見交換をすることで、以下のようなメリットが生まれます。
- 生徒の学びの変化を述べることで、それぞれの先生の「学びを見とる力」が高まる。
- 授業者は、授業中に気づかなかった生徒の様子を知ることが出来る。
- 授業者に直接的な意見を言っているわけではないので、多くの先生が意見を述べやすく、授業者も嫌な気持ちにならない。
研究授業は、すべての先生で行うことも多いです。
先生によって教科や学年がバラバラだからこそ、生徒を見る視点に立つことで全員が共通した学びを得られるのです。
まとめ:目的や段階に応じて授業観察を活用しよう
本記事では、授業観察の見方・考え方を3つの軸をもとに分類し、多様な視点で授業力を向上させることについて話を進めてきました。
- 教員を見るのか⇔生徒を見るのか
- 同教科を見るのか⇔他教科を見るのか
- 同学年を見るのか⇔他学年を見るのか
教員を見るのか、生徒を見るのかの視点を意識することで、「教える力」や「生徒の学びを見とる力」「生徒の学びを促進させる力」のそれぞれを鍛えることができます。
授業では、教える力を土台に生徒が主体的に学ぶ力を育成し、最終的には自律した学習者を育てることが目標です。
ですから、教員が教える技術と生徒に学ばせる技術の両方が大切なのです。
また何の教科を見るか、どのクラスの授業を見るかの視点も持ち合わせることが大切です。
同教科・同学年は、自身の授業に一番還元しやすく即効性があるため、授業改善のファーストステップです。
同教科・他学年は、系統性を理解することや授業スタイルを参考にしやすいメリットがあります。
同教科の授業観察を通して、自身の教科指導の土台をつくりましょう。
自身の授業スタイルが確立すれば、次は他教科の授業参観からも積極的に学びを得る段階です。
他教科ならではの授業スタイルが自分の授業に活かせたり、生徒の学びの様子から自身の授業を改善していくことができます。
いずれにしても、「授業を見させてもらうことで何を学びたいのか」という目的を持って授業観察を行うことで、授業力向上につながるのです。
また校内研修では、生徒の学びを見とる授業研究が参加者全員の学びを深めます。
これからの授業改善に、ぜひ本記事の内容を参考にしていただければ嬉しいです。
今回は学校内における授業改善について紹介しました。
学校外での学び方についての記事もありますので、ぜひこちらもご覧ください。
同僚の先生の授業を見て勉強する際に、何かポイントってあるのでしょうか。