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共通テストを振り返る。大切なのは、「学びに向かう力」

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2022年1月15日(土)、16日(日)に2回目の実施となる大学入学共通テストが行われました。

今年3年生の担任をしている身として感じたことは、『改めて「学びに向かう力」が重要性だ』ということです。

今回は、昨今教育業界で耳にする「学びに向かう力」を育成することの意義と私自身の実践法について、共通テストを振り返りながらお話ししたいと思います。

前年から大幅に平均点を下げた「数学」

新人先生

今年の数学は、前年と比較して平均点がとても低かったですね。受験生は、問題を解いながら焦りを感じていたのではないでしょうか。

きょういち

そうですね。

昨年は共通テスト1年目ということもあり、問題文の読み取りが増えたとはいえ数学的な思考の部分はかなり優しかった印象です。

そのようなことから、ほとんどの受験生が今年の難化を覚悟していたとは思いますが、予想以上のものでしたね。

 

今年度の数学の試験は、数学IA・数学IIBともに難化し、大幅に平均点を下げました。

大学入試センターが発表する入試結果によれば、数学の平均点は以下の通りです。

科目満点2022年平均点2021年平均点前年差
数学I10021.8939.11-17.22
数学IA10037.9657.68-19.72
数学II10034.4139.51-5.1
数学IIB 10043.0659.93-16.87
【大学入試センターHPより独自に作成】

令和4年度試験情報はこちらから

大学入試センターHP

ご覧のように、「数学IA」では前年差 -19.72点、「数学IIB」では -16.87点と大幅な減少を見せています。

平均点が低いとはいえ、自身の点数が低ければショックを受けてしまう受験生も多いはず。

特に倍率ではなく、合計点数で第1段階選抜を実施する大学を志望校にしていた場合は尚更でしょう。

「学びに向かう力」が見せた2次試験への意気込

そのような状況の中で、インターネット上では受験生によるショックの書き込みや共通テストに対する批判が相次ぎました。

私も勤務校の生徒に向けて、『今回は平均も低いから、周りもできていない。大丈夫。』と声をかける場面もありました。

しかし、共通テスト後に数学の授業が始まると、驚いたことに全ての生徒が前のめりに数学の問題に取り組んでいるのです。

そう、落ち込んでいる様子が一切ないのです。

本校では、共通テストが終了すると、私大一般入試と2次試験に向けて特別授業が始まります。

数学に関していえば、生徒の受験校に応じて過去問を選び、これまで後回しにしていた数学IIIを中心に対策を行います。

その授業では、難問に真剣に取り組み、周囲と協働的な学習を主体的に行なっているのです。

そもそも、新学習指導要領と共通テストの開始に伴って、入学時から「主体的・対話的で深い学び」を散々言い聞かせていた生徒たちです。

共通テストの結果は自身の予想より低いとはいえ、都道府県別の他校比較で見れば大健闘です。

多少の落ち込みはあるでしょうが、すぐに次に気持ちを切り替えて2次試験に向かっているのです。

彼らの中には一体何があるのでしょう。

それは、

「数学が好き」ということなのです。

これは、私が数学教員として働き始めた時から一貫している指導です。

新学習指導要領により授業形式が変わろうが、共通テストが始まろうが、そのために授業をするのではなく、「数学」という学問自体に面白さ感じて欲しいのです。

そして、「数学が苦手な子も数学を嫌いにならないで欲しい」、「苦手でも数学の楽しさを味わってほしい」、これが願いだったわけです。

その手段の一つとして、「主体的・対話的で深い学び」なのです。

「学びに向かう力」を如何にして身に付けるか

「数学が好き、もっとできるようになりたい。」

このような生徒になった経緯として、これまでの3年間の授業を通して私が行なってきた実践や考え方を紹介します。

多くの書籍でも既に扱われてきたことかもしれませんが、体験を読むことで「上手くやり方があるんだ。抵抗があったけどやってみよう」と少しでも感じてもらえると嬉しいです。

1 宿題を出さない

1年生の頃から提出を義務化する宿題は一切出していません。

写して提出するだけで意味がないからです。

もちろん課題は出しますが、それは個別最適化されたもので、自身で必要な学習を考えます。

その際、得意・不得意に応じて、問題集の取り組み方やICT教材(本校はスタディサプリを導入)の活用方法などは、しっかり伝えます。

強制の宿題は、誰のためにやっているのか分からなくなります。

本来、学習は自分自身のために行うものです。

自身の頭で学ぶ意味を考えながら学習に取り組むことが、「学びに向かう力」につながると考えています。

2 教師が教えない

一方的な講義形式の授業は、基本的に行いません。

授業の冒頭に、目標と課題を伝え、重要事項をさっと説明するだけです。

かかる時間は10分程度でしょうか。人によっては、それも長いらしいですね。

受け身の授業では、「学びに向かう力」は育めませんよね。

では、生徒は何をするのか。

自身で教科書の予習をして、問いを自ら他の生徒に解説をします。

初めは私がツッコミを入れる場面もありますが、慣れれば生徒自身がツッコミを入れられるようになります。

一人で説明まで持っていくのは、なかなか難しいでしょう。

だからこそ、ここで「対話的な学び」「協働学習」が生きてくるのです。

このような学びは、自身の学びの理解度を明確にし、数学の本質を学ぶ上でとても効果があると実感しています。

生徒によっては、初任の先生よりも上手に授業をしますよ!

3 数学の学び方を教える

上記のように数学の内容自体はあまり教えず、生徒自身が解説できるように数学の学び方を教えます。

教科書の読み方、教科書の書いてあることが分からないときの対処法、参考書やインターネットの使い方、質問の仕方などです。

大半のことは、自分達だけで何とかしてくれます。

教員の出番は、本当の最後の最後です。

自分で解決した経験こそが、学びに向かう意欲につながるのです。

4 禁止しない

「学びに向かう」ためには、学びために必要なことを禁止しないことです。

私の授業は、以下全てOKです。

  • 出歩いて相談
  • 座席自由
  • インターネットの利用
  • 解答の利用
  • ICT機器、アプリケーションの利用

静かに教員の話を聞いてノートを書くとか、教員の使わせたい場面でしか利用できないとか、制限は一切設けません。

目的と手段を混在しないことが重要だと私は考えています。

目標は、「数学ができるようになること」「数学の楽しさを味わうこと」なのですから。

いま知りたいこと、いまできるようになりたいことをその時に行うことが「学びの欲求」を高める上で重要です。

5 数学を学ぶ意味を伝える

最後は、教員が何を提供するかです。

教員が講義形式によって学習内容を教えない代わりに、時間をかけなければならないのは、事前の教材研究でしょう。

生徒自身が面白いと思うもの、解決したいと思うもの、そして数学を学ぶ意義を感じられるものを準備します。

学習指導要領には、数学を学ぶ意義として

  • 実用的な意義
  • 陶冶的な意義
  • 文化的な意義

の3つが挙げられています。

日常に関わる問題は、実用的な意義。

文化的な意義を実感できる面白い問題。

そして、数学によって身に付く思考力は何かを繰り返し伝えることです。

陶冶的な意義で挙げられているのは、知的好奇心,豊かな感性,想像力,直観力,洞察力,論理的な思考力,批判的な思考力,粘り強く考え抜く力などの創造性の基礎を養うこと、です。

数学を通して、何を身につけてもらいのかをきちんと伝えることで、苦手でも何とか数学を頑張ってくれたようです。

まとめ:「学ぶことが好き」に

今回は、2022年共通テスト数学の平均点が大幅に減少したこと。

そのような状況下で、落ち込む間もなく2次試験対策に向かうことができた「学びに向かう力」を育成するための授業の考え方について紹介しました。

それは、

学ぶことが好きである

という前提を持たせてあげることでした。

『学校の授業はつまらない』、『5教科学習は嫌い』、このような子どもたちを作らないためにも、教員が常に「学びに向かう力」を育成してあげられる授業を行なっていく必要があります。

当たり前を見直し、誰のための授業か、誰のための宿題か、教育の本質を考え、教員自身がマインドセットを常にアップデートしていきたいものですね。

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