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【教員向け】内発的動機づけの見方が変わる?教育現場で活かしたい「有機的統合理論」とは

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担任する生徒や授業を行う生徒に対して

「自ら積極的に学習に取り組んでほしいなぁ」

「またテストをチラつかせて、勉強の動機にさせてしまったなぁ」

なんて経験がある先生方は多いのではないでしょうか。

 

教育の世界では、「内発的動機づけ」「外発的動機づけ」の2つの言葉は有名です。

内発的動機づけによる行動が理想だと分かってはいても、実際には「教員側からアプローチしないと学習に向かわない」などと悩まれている先生方は多いと思います。

一般的に、内発的動機づけは「善」、外発的動機づけは「悪」のように考えてしまいがちです。

でも実は、これらは二項対立で考えるものではないのです。

 

内発的動機づけと外発的動機づけの2つの関係を連続線上に位置付け、変化していくものと考える

それが、今回紹介する有機的統合理論です。

理論をベースに、学習意欲を高めるためのポイントを紹介していきますので、ぜひ最後までご覧ください。

この記事を読んでほしい方
  • 生徒に学習活動を提供する先生方
  • これから教職を目指す学生の方
  • 子どもの学びに関わる方
筆者の経歴

高校の数学教員として10年以上授業を行っています。

内容を教えるのではなく、学び方を教えるをモットーに授業を展開。

教職大学院にて研修を行い、「理論と実践の往還」を意識して教育活動に励んでいます。

動機づけは、内発的か外発的かの二項対立ではない

きょういち

有機的統合理論を考える際に、まず動機づけについて確認しておきましょう!

新人先生

動機づけって聞くと、「内発的動機づけ」とか「外発的動機づけ」とかですよね?

 

「内発的動機づけ」と「外発的動機づけ」という言葉は教育現場でよくき聞きます。

内発的動機づけと聞くと、以下のようなものを想像するかもしれません。

内発的動機づけのイメージ
  • 生徒が自ら教科内容に関心を持ち、進んで学習をしている
  • 自分自身の進路実現のために進んで自主学習を行う
  • 将来のことを考えて主体的に職業を調べている

 

逆に外発的動機づけと聞くとどうでしょうか?

外発的動機づけのイメージ
  • ご褒美がもらえるから勉強する
  • 宿題を提出しないと怒られるから取り組む
  • 大学に行った方が有利らしいから、とりあえず大学進学のために勉強する

このようなイメージがあるのではないでしょうか?

新人先生

確かに、そのようなイメージがありますね。

「内発的動機づけ」の方がよいもので、なんとか生徒をそっちに向かわせたいというか…。

教育に携わる立場であれば、生徒の内発的な動機づけを引き出したいと願うのは当然のことです。

しかし、現実はなかなか難しいものです。

ときに教員も保護者も「強制」や「報酬」に頼って勉強をさせてしまうことに悩みます。

このような背景には、内発的動機づけが「善」、外発的動機づけは「悪」という二項対立の発想があります。

ただ実は、このように内発的か外発的かという立場は、二項対立で考えられるものではないのです。

それが今回紹介する「有機的統合理論」です。

有機的統合理論とは?

有機的統合理論「自己決定理論」の中の理論の一つです。

学術的な説明は、桐蔭横浜大学 教授の溝上先生のホームページ「溝上慎一の教育論」が大変分かりやすいので紹介しておきます。

より専門的に知りたい方は、そちらも参考にしてみてください。

 

きょういち

本記事では理論はほどほどに、具体的な学校事例を交えながら噛み砕いて説明をしていきます!

有機的統合理論とは、内発的動機づけと外発的動機づけを二項対立でとらえるのではなく、2つの関係を連続線上に位置づけた考え方です。

そして、個人の自律性によって動機づけの質が変化したり、複数の段階を持ち合わせていたりすると考えるのです。

有機的統合理論
有機的統合理論 Ryan & Deci (2000), FIG.1(p.61)をもとに筆者作成

外発的動機づけは、さらに「外的調整」「取り入れ的調整」「同一化的調整」「統合的調整」の4つに分けられます。

これらの4つに「無動機づけ」「内発的動機づけ」を含めた計6つの状態が連続していて、個の自律性によって段階的に変化する、また複数持ち合わせていると考えるのです。

それぞれの段階を簡単に説明すると以下の通りです。

自律の段階学習者の状態学校現場での例
無動機づけ動機づけがない状態行動する気はない
外的調整報酬や罰などによって取り組んでいる状態怒られるから宿題をしよう
取り入れ的調整外部の期待や要請によって取り組んでいる状態みんなの前で恥をかきたくないから、練習しておこう
同一化的調整外部からの期待や要請に、自分でも価値を認めてとり組んでいる状態親や先生が言うように確かに大学進学をしておいた方が、将来の役に立ちそうだから、勉強しよう
統合的調整外部の期待や要請を自身の他の側面と有機的に統合して行動している状態将来は食品開発に携わりたいから、大学に進学して化学分野をより深く学びたい。そのため大学進学に向けた学習に取り組もう
内発的動機づけ興味・楽しさによって行動している状態数学が純粋に楽しく、探究し続けている

 ※近年の研究では「同一化的調整」と「統合的調整」に差が見られないことから、一つにまとめて「同一化的調整」としていることが多いです。

新人先生

「同一化的調整」や「統合的調整」は、感覚的に内発的動機づけだと思ってました。

きょういち

確かに近いでしょうね。

大切なのは、外発的動機づけを細かく分類して連続的に見ることです。

有機的統合理論
  • 内発的動機づけと外発的動機づけを連続線上に位置づける
  • 外発的動機づけは、「外的調整」「取り入れ的調整」「同一化的調整」「統合的調整」の4つに分けられる
  • 自律性と動機づけが変化する、また複数の段階を持ち合わせている

有機的統合理論の考え方を教育現場で活かそう!

新人先生

有機的統合理論については、よくわかりました。

実際どのように教育現場に活かしていけばよいのでしょうか?

有機的統合理論の学校現場への活かし方
  • 外発的動機づけも有効な場合があると認識する
  • 内発的動機づけは、相当レベルが高い状態であることを念頭に入れておく
  • 変化を見とるための評価をしっかり行う

外発的動機づけも有効な場合があると認識する

「外発的動機づけ=悪」、「内発的動機づけ=善」という二項対立をやめて、生徒の段階に応じた支援を考える必要があるということです。

生徒によって自律の段階は異なります。

きょういち

強制やご褒美によってでしか勉強に向かわない生徒もいれば、学習の意味を語ることで学びに向かう生徒もいるわけです。

 

大切なことは、目の前にいる生徒の実態がどの段階にあるのかを見取ることです。

場合によっては、外発的な動機づけでないと一歩が踏み出せないこともあるのです。

 

ただし重要なのは、ずっと「外的調整」や「取り入れ的調整」ではマズイということ。

受験生である3年生になっても、単語テストをして不合格者を繰り返し呼び出す

なんてことをしている人も見てきました。

これでは、自律のレベルが低いままです。

 

  • 入学当初は、高校の学習についていくために課題は出す
  • 1年生の後半からは徐々に自分で学習を計画し、学習を進めていくよう変えていく

など、徐々に自律のレベルを高める指導をしていく必要があるのです。

一見当たり前のことですが、ここを落としてしまう教員は少なくありません。

恐怖や報酬って即効性があってやりがちです。

きょういち

一時的な成果に過ぎませんから、自律性を高める支援をしていきましょう!

大量の課題、必要以上の叱責はまだまだ現場に残っています。

誤概念による経験的な指導でなく、理論と結びつけて指導することが大切です。

内発的動機づけは、相当レベルが高い状態であることを念頭に入れておく

図のように連続線上でとらえると、内発的動機づけによる行動が相当レベルの高い状態であることがわかります。

ですから内発的動機づけによって学習を進められる生徒は少ないのが当たり前。

あまり落ち込む必要はないことも知っておきましょう。

 

「外的調整」→「取り入れ的調整」→ 「同一化的調整」→「統合的調整」と一つ上、2つ上の段階に連れて行ってあげることが教師の役割です。

  • 初めは怒られるから勉強していた生徒も、定期テスト前に周りが勉強していると危機感で勉強するようになる。
  • とりあえず定期テストのときだけ勉強していた生徒が、将来有利に働くだろうと日々の勉強に向かう。
  • 担任に難易度の高い大学を目指すよう言われていただけの生徒が、深く学びたい学問分野や関心のある研究室を見つけて、その教授がいる大学を目指す。

など個々に自律の段階は変化します。

ですから、それぞれの生徒に応じた声かけを行ったり、課題に挑戦させたりすることが大切なのです。

 

きょういち

最低でも「同一化的調整」、できれば「統合的調性」と考えて、肩肘張らずに取り組んできましょう。

新人先生

そう考えると支援がしやすいですね!

きょういち

もちろん達成できる生徒には、内発的動機づけに向けた支援をしましょう。

 

一方、「総合的な探究の時間」における探究学習は、内発的動機づけまで辿り着いてもらいたいものです。

探究学習では、自己の在り方・生き方を踏まえて探究的な課題に取り組みます。

探究的な技法を教える場面はあるにしても、教師はあくまで伴走者です。

 

生徒が自らの興味・関心を出発点として、課題を発見していく。

探究のサイクルを回す中で、答えのない問いに向かっていく。

探究学習では、このような内発的動機づけによる行動をぜひ味わってもらいたいものです。

この探究学習の過程で教科横断的な視点が取り入れられることで、興味・関心が教科をまたぎます。

その結果、教科学習についても自律のレベルが上がっていくのです。

変化を見とるための評価をしっかり行う

教師の役目は、自律した学習者を育成することです。

教科学習や学校行事のみならず、探究学習やキャリア教育、人権教育など全ての教育活動を通して、現代の諸課題に自ら取り組む生徒の育成を目指さなければなりません。

そのために必要なことは、生徒が現在どの自律の段階に達しているのかを適切に評価することです。

生徒の自律のレベルを見取る努力をしなければ、授業改善も進路指導や生徒指導も行うことはできないのです。

きょういち

例えば、こんな場面をよく見かけます…。

自律のレベルを見誤った例①

大学進学の価値を理解して学習している生徒に、「土曜補習は全員参加だ!」なんて強制をする。

これは「同一化的調整」のレベルにいる生徒に対して「外的調整」のレベルのアプローチをしている。

結果、補習の効果は低く、教員のモチベーションも上がらない。

自律のレベルを見誤った例②

「数学はたくさん問題を解くことが重要!」と言って、「P◯〜P△△まで」と大量の宿題を全員一律に出す。

結果、答えをノートに写すだけだったり、得意な生徒が無駄な時間を費やしたりする。

なぜ学ぶのかの価値を伝えるべき生徒、自分で計画を立てて取り組める生徒、それぞれの自律の段階を考慮していない。

新人先生

これまで、何度かありました…。

 

例のようにならないためにも

担任や学年職員としては、生徒との面談や日頃の対話を通して、生徒を状況をアセスメントしていくことが大切です。

手帳指導や学習時間調査を行っている学校は、それらを活用するのもよいでしょう。

教科担当としては、パフォーマンス課題や振り返りシートなどを通して形成的評価を進めていくことが大切です。

 

新人先生

生徒の実態を適切に把握し、ちょっと上の自律レベルに達成するためのアドバイスをすることが大事ですね。

きょういち

一方的な授業がICT活用に代替される現代、生徒一人一人をしっかり見てあげることこそが教師の役割の一つでしょう。

 

まとめ:動機づけの見方を変えれば、指導が変わる

今回の記事では、「有機的統合理論」について紹介し、理論をもとに学校現場でどう考え、何を行うべきか考えてみました。

有機的統合理論
  • 内発的動機づけと外発的動機づけを連続線上に位置づける
  • 外発的動機づけは、「外的調整」「取り入れ的調整」「同一化的調整」「統合的調整」の4つに分けられる
  • 自律性と動機づけが変化する、また複数の段階を持ち合わせている

これまで「外発的動機づけ⇔内発的動機づけ」と二項対立で考えていたものを、自律の段階に応じて連続的に捉えなおす理論です。

外発的動機づけは、さらに「外的調整」「取り入れ的調整」「同一化的調整」「統合的調整」の4つの段階に分かれ、自律のレベルが細分化されます。

有機的統合理論
有機的統合理論 Ryan & Deci (2000), FIG.1(p.61)をもとに筆者作成

 

6つの段階を連続線上にとらえることで、目の前にいる生徒がどの段階に達しているのかを見取る指標となるのです。

新人先生

大切なことは、生徒の状態をしっかり見て、個に応じた支援を行っていくことでしたね。

きょういち

そのためにも適切に評価を行い、状況に応じて指導方針を変えることが大切です。

有機的統合理論の学校現場への活かし方
  • 外発的動機づけも有効な場合があると認識する
  • 内発的動機づけは、相当レベルが高い状態であることを念頭に入れておく
  • 変化を見取るための評価をしっかり行う

目の前の生徒に合わせた支援を選択して行うこと。

そして、いきなり内発的動機づけを目指さずに、一つ上の自律の段階に導いてあげること。

そのために生徒の実態を把握する「形成的評価」をしっかり行うこと。

これらを意識して取り組むことが大切なのです。

 

理論を学び、それらを自分なりに現場で活用してみることはとても大切な視点です。

ぜひ皆さんなりに噛み砕いて実践に移してみてください!

きょういち

今回の記事が、先生方や学びに関わる方々の参考になれば嬉しいです。

 

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参考・引用文献

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