
テストの結果を見せて「もっと頑張ろう」と声をかけたんですが、逆に落ち込んでしまった生徒がいて……。

その声かけ、実は逆効果になることがあるんです。
「学習性無力感」という視点から、一緒に考えてみましょう!
生徒のためを思って伝えた言葉が、かえって意欲を奪ってしまう。
そんな経験はないでしょうか。
教員としてはごく自然な指導ですが、生徒の受け取り方は必ずしも同じではありません。
「こんなに頑張っているのに認めてもらえない」
「どうせ自分には無理だ」
そう感じた生徒は、やがて努力そのものをやめてしまいます。
これが「学習性無力感」と呼ばれる状態です。
今回は、教員が無意識にやってしまいがちな場面を振り返りながら、学習性無力感を生まないための5つの工夫を紹介していきます。
高校の数学教員として15年以上授業を行っています。
ただ学習内容を教えるのではなく、「学び方を教える」をモットーに授業作りをしています。
学級経営や授業開きでは、対話的な学びを実現するために、人間関係づくりを基として心理的安全性の確保を心がけています。
目次
学習性無力感とは何か

学習性無力感とは、何ですか?
学習性無力感とは以下のことを言います。
「どうせやっても無駄だ」という信念が学習されてしまうことによる意欲の喪失感
教育心理学キーワード P38
もともとは心理学者セリグマンの研究で知られる概念ですが、学校現場でも日常的に見られる現象です。
犬に自分では避けられない電気刺激を繰り返し与える。
その後、逃げられる状況になっても、犬は逃げようとせず、その場で刺激を受け続けるようになってしまう。
つまり、「何をしても無駄だ」と学習してしまうと、人や動物は行動そのものをやめてしまうことがあるというものです。
教育現場で言えば、生徒が次のように考えてしまうことがよくあります。
このような考え方は、「努力しても結果が変わらない」という経験が続くことで生まれます。
テストで結果が出ない、努力しても評価されない、周囲と比較され続ける。
こうした経験を重ねると、ますます「やれない状態」に近づいていってしまうのです。
教員がやってしまいがちな教室で起きやすい学習性無力感
上記のようなことは、生徒の考え方だけが原因ではありません。
日々生徒と接している教員が、その原因を作ってしまうこともあるのです。
もちろん、ほとんどの教員は生徒の成長を願って指導を行います。
しかし、良かれと思って行っている指導が、学習性無力感につながる場合があるのです。
例えば次のような場面です。
これらは、どれも学校ではよく見られる指導です。
意図としては、「頑張ってほしい」「気づいてほしい」「やる気を出してほしい」という前向きなものでしょう。
しかし、生徒によってはこう受け取ります。
こうして他者と比較をされたり、自分の中での努力が数値化されたデータだけによって否定されたりすることで、無力感が生まれてしまうのです。

悪気なくやってしまいそうですね。
学習性無力感を和らげるために

ここからは、上記のような学習性無力感を生まないよう、私自身が心がけていることを5つ紹介していきます。
努力の方法(学習方略)を伝える
学習において大切なことは、努力の量だけでなく、その方向性です。

このような状態では、努力が結果に結びつかないことも多いでしょう。
すると生徒は、「こんなにやっているのに伸びない」と感じるようになります。
これがまさに、「努力しても無駄だ」という感覚につながるのです。
だからこそ教員は、単に努力を促すだけでなく、努力の方法そのものを具体的に伝える必要があります。
こうした具体的な学習方略を示すことで、「努力が成果につながらない」という感覚を軽減させるサポートができます。
▼学習効果を高める「学習観」については、こちらの記事でも紹介しています。
評価の視点を変える
ドゥエックらの目標志向性の研究では、次の2つの目標の違いを示しています。
遂行目標の場合は、他者との比較が前提になるため、努力が報われなかった時に自信を失いやすくなります。
特に教員がやりがちなのは、テストの点数だけで評価をすることです。
テストの点数が振るわず成果を示せなかった場合、「能力が低いと思われたくない」という自尊心の維持のために、努力をしないという選択に陥ってしまうことがあります。
一方で、習得目標の場合は、個々の学力に応じた達成可能な目標を設定したり、過去からの学習姿勢の変化を評価したりします。
過去の自分と今の自分を比較すれば、努力に応じて多少なりとも「できるようになったこと」があるはずです。
また、学習者自身が振り返りや自己評価を行うことで、学習に向かう意欲を促すこともできます。
他者と比較しない

他者との比較も教員がやりがちな行動の一つです。
定期考査などで隣のクラスとの平均点を比較したり、学習時間の量を比較して発破をかけたりする様子をときどき目にします。
目の前のクラスが学年で1位であればよいですが、「今回は最下位だったぞ、もっとやらないと!」なんて言葉をかけてしまう先生もいますよね。
個々の生徒に寄り添い、成長の機会に目を向ければ、前向きな評価ができるはずです。
他者との比較では、上位がいる反面、必ず下位も存在します。
努力をしたのに「自分は下だ」と評価されれば、やる気がなくなるのは当然です。

高校現場などでは、定期考査ではよく順位を出しますよね。

そうですね。
私自身が個別で単元テストをするときは、順位は決して出しません。
テスト=「総括的評価」としての利用。
これは一般的な発想でしょう。
しかし単元テストは、自身の定着の度合いを確認し、復習計画を立てるなど「形成的評価」の役割も持ち合わせています。
そのように考えた場合、学年順位や偏差値を出すことにどれだけの意味があるでしょうか。
ただ、学校の方針として成績個票などで順位が出てしまう場合もあるでしょう。
そのような時には、私自身は順位にこだわる必要がないことを生徒に伝えるようにしています。
もちろん、大学受験に向けた全国模試における立ち位置の把握などでは順位が必要となる場面もあるでしょう。
しかし、定期テストの順位では意味が異なります。
生徒のやる気を失わせる行動は、できるだけ避けたいと考えています。
指導と評価の一体化を意識する
授業で扱っていない問題を定期テストで出題したがる先生は一定数います。
そのようなねらいがあるのでしょう。
これも実力テストのような一夜漬けに頼らない、既習事項全てが出題範囲になるような試験であれば良いと思います。
しかし、普段の定期テストや単元テストなどの授業の理解度を測るテストにおいても、難問を出してはいませんか?
「100点防止問題」「上位向けに」などの理由がありますが、100点が何人も出ることは、むしろ授業内容が定着している証拠であり、良いことです。
学習到達度を測るテストは、学習してきたことがしっかりと成果につながるよう、平均点が高くなっても構わないのです。
進学校では平均20点のテストなども存在します。
しかし、学習した内容がきちんと評価されない…。
これは、生徒にとって学習性無力感を生む大きな要因の一つです。
指導した内容と評価項目を統一する。
指導と評価の一体化を図ることで、努力の結果がそれなりに反映される。
そのような意識を持ってテストを作ることも大切です。
振り返りシートで「できたこと」を言語化させる
生徒にとって、テストは成績に反映される評価という認識が一般的です。
そのため、日々の学習の成果を成績としてのフィードバックからしか得られない場合、その過程である努力を自分自身で可視化していくことは難しいでしょう。
そこで日々の学習を自身で振り返り、「分かったこと」「できたこと」をアウトプットし、視覚化しておくことが効果的です。
毎回の授業で自分の獲得した知識を言語化しておくことで、何ができるようになったかを見返すこともでき、自身の成長を自己評価することができます。
私はOPPシートを活用しているので、生徒は毎時間の振り返りに加え、単元を通して学習前と学習後の自分の知識や数学的な見方・考え方の変化を言語化できます。
テストで「数学を解く」という面で結果が出なくても、自分の中で過去の自分よりも数学的な能力や見方・考え方の力がついたことを自己評価できる。
そのような活動を通して、学習に対する達成感を味わうことができるようにするのです。
▼振り返りについては、こちらの記事でも紹介しています。
まとめ:「どうせ無理」は、教室の中から変えられる
今回の記事では、「学習性無力感」をテーマに、教員が普段何気なくやってしまいがちな学習意欲を下げてしまう行動と、学習性無力感を生まないための工夫について紹介しました。
学習性無力感は、生徒の怠けや甘えから生まれるものではありません。
「努力しても変わらない」という経験の積み重ねが、意欲そのものを奪ってしまう現象です。
そして厄介なのは、教員が良かれと思って行っている指導が、その原因になり得るということです。
そのような学習性無力感を生み出さないために、今回紹介した工夫は以下の5つです。
どれも特別な準備が必要なものではありません。
日々の声かけやテストの作り方、評価の伝え方を少し変えるだけで、生徒の「どうせ無理だ」を減らすことができます。
生徒が「やっても無駄だ」と感じる前に、「やったらできた」という小さな成功体験を積み重ねられる環境を作ること。
それが、教員にできる最も大切な支援の一つではないでしょうか。

今回の記事が、生徒の学びを支援する先生方の参考となれば嬉しいです。
▼今回の記事に興味を持ってくださった方は、こちらの記事もどうぞ!

































