
まだまだ学校現場では、ハードルが高い状態が続いていますよね。
「去年の資料、どこにありますか?」
「毎年いちから資料を作らないと…」
このような会話、学校現場にいると毎年耳にする光景ではないでしょうか。
近年、多くの学校では情報漏洩防止の観点からUSBの使用が禁止され、GoogleドライブやOneDriveなどのクラウドサービスの導入が進んでいます。
しかしハード面が整っても、現場の運用は昔ながらというケースも少なくありません。
こうした非効率な業務の進め方が残っていると、「探す時間が増える」「引き継ぎが機能しない」といった課題が生まれてしまいます。
これらの原因は、先生方のICTスキル不足ではなく、「運用方法の仕組み」が整っていないことにあります。
今回の記事では、学校現場でクラウドを活用するメリットや、無理なく導入・定着させるためのステップを紹介します。

私自身の実体験をもとに紹介していきます。
この記事を読んだ先生を中心に、少しずつ学校に「定着」させていきましょう!
高校の数学教員として10年以上教壇に立っています。
ただ学習内容を教えるのではなく、「学び方を教える」をモットーに授業作りをしています。
ICT活用による業務の効率化・システム化を図り、生徒と向き合う時間を最大化することを意識しています。
目次
なぜ学校現場でデータ管理が混乱するのか
問題の本質は「保存場所」ではなく「共有の仕組み」
学校の資料の保存先の選択肢は、主に次の3つです。
- 共有サーバー(校内LAN)
- 個人端末(PCデスクトップ等)
- 外付けデバイス(USB、HD等 ※禁止の学校も増加)
最も多いのは「共有サーバー」でしょう。
誰もがファイルを閲覧できるため、多くの学校で基本の保存場所となっています。
しかし、校内の有線ネットワークに繋がっていなければアクセスできないという場所の制約があります。
ここをクラウドに変えるだけで、Wi-Fi環境下であれば教室・会議室・出張先など、いつでもどこでもアクセスが可能になります。
最大の敵は「個人PCへの保存」
一方で、業務が最も滞るのは「個人PCへの保存」です。
学校は「個業」の側面が強く、授業をはじめ基本的に自分の仕事を自分で完結させる文化があります。
そのため、「自分さえ使えれば良い」「次年度の担当者のことは後回し」となり、デスクトップ上で仕事をしてしまう人が後を絶ちません。
これでは、以下のような問題が発生します。
- 誰が最新ファイルを持っているか不明
- 引き継ぎ時に資料が散在している
- フォルダ構造が人ごとに異なり、探せない
結果として、データ管理が「属人化」してしまいます。
これはICTスキルの問題以前に、組織としてのデータ管理の仕組みが整っていない状態なのです。
業務を効率化するためには、まずは「できるところから」クラウド化を始めていく必要があります。
クラウド活用で得られるメリット

まずは、学校全体でクラウド化を進めるメリットを確認しておきましょう。
実際に得られる効果を整理すると次の通りです。
探す時間が減る
学校現場では、「データがどこにあるか探す時間」が想像以上に大きな負担になります。
前任者に聞こうと思っても、授業中だったり、そもそも離任していたりと、確認すらできないことも多々あります。
行事・分掌・学年・保護者通知……どれも毎年必要な資料ですが、年度によって保存場所がバラバラだと、検索だけで疲弊してしまいます。
クラウド(特にGoogleドライブ等)は、キーワード検索やファイル種別検索が非常に優秀で、瞬時に目的の資料を見つけることができます。
引き継ぎが簡単
担当学年や分掌が毎年変わる学校現場において、引き継ぎは重要課題です。
しかし、資料が散在していて、結局一から作り直すというケースは珍しくありません。
クラウド活用なら、「分掌フォルダ」のアクセス権限を次年度担当者に付与するだけで引き継ぎが完了します。
「受け取った人が困らない状態」が自然とつくられ、個人に依存しない組織運営が可能になります。
同時編集が可能
会議資料や行事計画書など、複数人が関わる資料作成において、クラウドは最強のツールです。
Googleドキュメントやスプレッドシートを利用すれば、複数人で同じファイルをリアルタイムに編集できます。
「最新版はどれ?」「〇〇先生の入力待ち」といった無駄な時間が解消されます。
また、コメント機能や変更履歴により、修正の意図も可視化され、会議前の準備などの効率が大幅に向上します。
▼クラウドを用いた「生産性を高める会議」については、こちらの記事でも紹介しています。
セキュアな運用
紛失・盗難・ウイルス感染リスクのあるUSBメモリは、すでに多くの自治体で制限されています。
クラウドでは、アクセス権限(閲覧のみ・編集可など)を役割に応じて設定でき、情報を最小限かつ安全に共有できます。
※注意:成績処理など個人情報の扱いについては、ネットワーク分離の規定がある自治体も多いです。
必ず勤務先のセキュリティポリシーを確認してください。
どこでも作業可
職員室の自席PCからしかアクセスできない仕組みだと、授業直前の修正や、出張先での確認ができません。
クラウドなら、どの端末からでも同じデータにアクセスでき、作業環境が統一されます。
持ち帰り仕事の是非はありますが、「場所を選ばず仕事ができる」という選択肢は、多忙な教員にとって精神的な余裕にもつながります。
今日からできるクラウド導入ステップ

ポイントは「一気に変えない」こと。
小さく始めて、確実に定着させましょう。
「小さく始め、確実に広げる」ことが定着の鍵
学校にはICTが得意な先生もいれば、苦手意識を持つ先生もいます。
特にベテラン層は「良さそうだけど不安」「使い方が分からない」という理由で踏み出せないことが多いのです。
ここで重要なのは、理想を押し付けないこと。
まずは小さな成功体験を積み重ね、「使えた」「便利だった」「助かった」と実感してもらうことが最も効果的なアプローチです。

私自身が行った段階的な導入ステップを紹介します。
ご自身の分掌や学年で試してみてください。
- STEP1:自分が主担当の校務分掌から始める
- STEP2:フォルダ整理・命名ルールを予め決めておく
- STEP3:共同編集を試す
- STEP4:引き継ぎ資料をクラウドに一本化
STEP1:自分が主担当の校務分掌から始める
まずは「自分が責任を持てる範囲」から始めてみましょう。
いきなり学校全体を変えるのではなく、自分がメインで動かす業務の資料をクラウド移行します。

私は探究活動を担当しています。
全ての授業教材をクラウド化し共有することで、私が不在でも、他の先生がファシリテーターとして授業を進められる仕組みを作りました。
ここで大切なことは、「これから作る資料」から始めることです。
過去の遺産まで整理しようとすると挫折します。
これから作るものをクラウド保存に変更し、少しずつ「クラウドが当たり前」の文化をつくっていきましょう。
STEP2:フォルダ整理・命名ルールを予め決めておく
ICTが苦手な先生に負担をかけないよう、「迷わせない仕組み」を作ることが重要です。
よくある失敗が「クラウドに入れたけれど、検索できない(名前が適当)」という状況です。
これを防ぐため、以下の2つを意識してルールを決めましょう。
- フォルダ階層: 誰が見ても直感的に分かる構造にする
- ファイル命名: 「2025_1201_体育祭要項_生徒向け」のように、いつ・何の・どんなファイルかが分かるようにする
これらのルールを周知しておくことで、直感的に欲しいファイルをすぐに見つけられるようになります。
STEP3:共同編集を試す

準備ができたら、「便利」を体感してもらうフェーズです。
クラウドならではの価値が伝わりやすい業務で、共同編集を試してみましょう。
単に「どこでも見られる」だけでなく、「みんなで同時に作れる」体験こそが、クラウド化を一気に加速させます。
学年・分掌などのご自身が動きやすい場面で、上記のような同時編集をしてみましょう。
その中で以下のような便利さが伝われば、学校のクラウド化は一気に加速します。
| 業務例 | before | after |
|---|---|---|
| 会議の議事録 | 追記・修正が口頭連絡・各自のメモで漏れやすい | その場で変更を編集・いつでも見返せる |
| 授業スライド | 一からすべて一人で作る | 単元ごとに役割を分けたり、同時に作成したりできる |
| 年間行事計画 | どれが最新版か、最終編集がいつか分からない | どの分掌がいつ編集したのかがすぐ分かる |
| 提出物・出欠チェック | 学年内で共有できず情報が属人的に | チームで学級運営に取り組むことができる |
| 行事の準備工程 | 「誰がいつ何をするか」共有が難しい | 進捗状況の共有やコメント機能で変更点がすぐわかる |
STEP4:引き継ぎ資料をクラウドに一本化

最終ステップは、次年度担当者への「引き継ぎ」です。
整理されたフォルダ構成と、命名ルールが守られたファイルをそのまま共有権限で渡します。
次年度の担当者が「去年のデータ探さなきゃ…」とならず、初日からすぐに仕事に取り掛かれる状態を作ります。
「前の担当者に聞きに行く時間が減った」
「去年の修正履歴が見られて助かった」
こうした実感が現場に生まれることで、クラウド活用は「個人の工夫」から「学校の文化」へと昇華していきます。
終わりに:クラウドは「教員の時間」と「学校の財産」をつくる
今回の記事では、学校業務をクラウド化するメリットと、組織としての文化を築くための導入ステップを紹介しました。
学校現場はどうしても「個業」になりがちです。
しかし、担当者のPCの中だけで仕事が完結してしまうと、それは「学校の資産」になりません。
そこで、クラウド化によって業務の効率化を図りましょう。
ただ、ICT技術を学ぶ時間がない先生や、変化に戸惑うベテランの先生もいらっしゃいます。
そこで、拒否感を生まないクラウド化のステップを紹介しました。
- STEP1:自分が主担当の校務分掌から始める
- STEP2:フォルダ整理・命名ルールを予め決めておく
- STEP3:共同編集を試す
- STEP4:引き継ぎ資料をクラウドに一本化
個人で業務を進めることが多い教職。
自分で作った資料を「個人のもの」ではなく、「学校の資産」として残すこと。
クラウド導入の目的は、ICT化そのものではなく、教員の業務負担を減らし、学校全体で知識を継承する仕組みをつくることです。
資料を探す時間が減り、引き継ぎがスムーズになり、共同編集が当たり前になる。
その先にあるのは——
「先生が生徒と向き合う時間が増える学校文化」です。
クラウド化が進んでいない学校にお勤めの方は、是非みなさんの始められる範囲で、導入の一歩を踏み出してみましょう。

本記事が、先生方の業務改善のヒントとなり、生徒のより良い教育環境の実現につながれば嬉しいです。
▼今回の記事に興味を持ってくださった方は、こちらの記事もどうぞ!

































うちの学校はクラウド化が進んでおらず作業効率が悪くて…